塗装における膜厚の重要性とは?推奨膜厚や主な測定方法を解説

塗装において膜厚は、機能性と耐久性の両面に大きく関わる重要な要素です。膜厚は薄すぎても厚すぎても塗料本来の性能は発揮できません。しかし、塗料は厚く塗れば安心と考える施工者も中には存在しており、適正な膜厚が遵守できていないケースもあります。

そこで本記事では、塗装における膜厚の重要性や塗装方法別の推奨膜厚について解説します。膜厚の主な測定方法も紹介しているので、塗装ごとの膜厚基準を設定したい方や、品質安定化にお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。

塗装の膜厚とは

塗装の膜厚とは、塗装完了後に形成される塗膜の厚みを指し、主にマイクロメートル(μm)単位で管理されます。膜厚の違いは性能や仕上がりに影響を与えるため、厳密な管理が求められます。

塗装品質を保つためにも、膜厚は正確に測定・管理しなければなりません。たとえば、測定時には以下のポイントを押さえておきましょう。

  • 測定面の洗浄:油分や水分などが残っていると正確な数値にならないため、ウエスやアルコールで拭き取る
  • 測定位置の選定:角や曲面などは膜厚が変動しやすいため、代表点を複数選んで平均値を出す
  • 測定方法:プローブは対象面に垂直にあてる。マイクロメーター式では測定圧に注意する
  • 測定前の準備:塗装していない基材や標準膜厚板を使用し、測定器の値を基準値に整える


膜厚の測定方法は複数あり、それぞれに特徴やメリット・デメリットがあります。詳細は後述します。

膜厚が適正でなければならない理由

膜厚が適正でなければ、塗膜本来の機能に大きな支障をきたし、製品に悪影響を及ぼすリスクが生じます。たとえば、膜厚にムラが生じると以下のようなトラブルが生じます。

  • 耐食性の低下:膜厚の薄い部分は下地が露出し、錆の原因になりやすい。膜厚が厚い部分はピンホールやはじき、膨れなどの塗装不良につながる
  • 機械不適合・精度不良:膜厚によって部品の嵌合(かんごう)やクリアランスの寸法がずれてしまう恐れがある
  • 電気特性の変動:塗膜が薄いと絶縁性が低下し、電流漏れによる故障などのリスクが生じる。厚膜では、必要以上の抵抗力によって、特性が狂う

膜厚は10〜100μm異なるだけでも特性に影響は出るとされています。一方で、使用環境や製品特性などによって異なるため、薄膜・過膜のリスクと基準はメーカーの仕様や社内規格に準拠する必要があります。

膜厚は複数点(中央、四隅、エッジ付近、曲面、隣接部品付近など)で測定し、平均値や標準偏差を管理することも品質を維持するうえで重要です。合格基準は用途や仕様によって異なりますが、製品品質に影響を与えない範囲で幅を持たせて管理を行いましょう。

塗装で一般的に推奨される膜厚

塗装で一般的に推奨される膜厚は、使用する塗料の種類や塗装プロセスによって異なります。ここでは、塗料系別と塗装プロセス別の推奨膜厚について解説します。

1. 塗料系別推奨膜厚

塗料は大きく粉体塗料と液体塗料(溶剤・水性)に分類されます。それぞれに推奨される膜厚や塗装時の注意点が異なるため、製品や用途に合わせた塗料選定が求められます。

塗膜の厚さは塗料の種類だけでなく、塗装プロセスや乾燥・硬化条件の影響も受けるため、あくまで塗料単体での目安として把握することが重要です。

粉体塗装

粉体塗装の膜厚は1回で30~150μmです。溶剤塗装の3〜4倍に達することもあるなど、1回で膜圧を厚くしやすい特徴があります。

粉体塗装は、溶剤を使わず粉状の塗料を金属表面に付着させ、加熱硬化させる塗装方法です。顔料や樹脂などがすべてパウダー状になっており、静電気を利用して塗料を密着させる点に特徴があります。

エポキシ・ポリエステル・ハイブリッドなど樹脂系によって標準膜厚は異なるため、用途に応じた選定が求められます。一方で、エッジ部での膜厚不足やピンホール・オレンジピールの発生リスク、帯電・接地・湿度の影響を受けやすい点には注意が必要です。

焼付後のリワークは困難であるため、再塗装の際には既存塗膜を除去してから再塗装しなければなりません。さらに、再焼付では黄変のリスクがあるため、初回の膜厚管理が品質維持には不可欠です。

溶剤・水性塗装

溶剤・水性塗装の膜厚は、上塗り1コートで10〜40μmです。アクリルやウレタン、フッ素などの樹脂を含む液状塗料をスプレーガンで塗布する方法で、塗料の種類や用途によって標準膜厚は異なります。

溶剤・水性塗装は薄膜で仕上げられるため、美観や平滑性に優れ、複雑な形状にも対応しやすい特徴があります。一方で、希釈溶剤の調整やガンの設定(吐出圧・霧化圧など)で膜圧・外観が変わる点には注意が必要です。

塗装工程は下塗り・中塗り・上塗りを合計して膜厚を管理し、フラッシュオフや焼付条件の影響も考慮することが重要です。各工程で測定と記録を徹底することが、安定品質につながります。

2. 塗装プロセス別推奨膜厚

塗装プロセスによっても、一般的な膜厚には違いがあります。吹付塗装や浸漬塗装では、同じ塗料でも膜厚のばらつきや定着の安定性が変わるため、工程ごとの特徴と管理ポイントを理解しておくことが重要です。ここでは、吹付塗装や浸漬塗装など、塗装プロセス別の推奨膜厚について解説します。

吹付塗装

吹付塗装は、エアスプレーや静電スプレー、エアレススプレーといった方式により、1パスあたりの到達膜厚が異なります。また、下塗り・中塗り・上塗りにおける一般的な推奨膜厚は以下のように異なります。

  • 下塗り:15~300μm
  • 中塗り:30~100μm
  • 上塗り:30~50μm

エアレススプレーは高圧による厚膜形成が可能であるため、耐久性や防食性が求められる製品に向いています。使用する機材や塗料条件によって再現性に差が生じやすいため、ガンの移動速度・噴射距離・ラップ率(塗り重ね率)をあらかじめ標準化しておくことが重要です。

浸漬塗装

浸漬塗装では、焼付型溶剤塗料の1コート目安膜厚は15~40μmです。塗料に製品を浸して塗布するため、粘度・温度・引き上げ速度が膜厚に大きく影響します。

浸漬塗装は塗料の粘度・温度・撹拌によって膜厚ムラが生じやすいため、適正膜厚を得るには粘度計を使って塗装前に塗料の粘度を確認し、基準値に調整することが重要です。簡易的には滴下速度で確認できますが、粘度計の使用が推奨です。

実際の現場では、製品の温度プロファイル管理(T-タイム)が膜厚品質の維持につながります。

膜厚の主な測定方法と使い分け

膜厚の測定には大きく「非破壊式」と「破壊式」の2種類があります。施工現場では対象物を傷つけずに測定できる、非破壊式の膜厚測定が主流です。ここでは、以下の代表的な3つの測定方法を紹介します。

  • 電磁式測定
  • 渦電流式測定
  • マイクロメーター測定

特に電磁式と渦電流式は混同されやすいため、どのように使い分けるかを理解しておきましょう。また、現場運用では下地材に応じた使い分けや測定前のゼロ板・校正片で校正を行うことが重要です。さらに、曲率・エッジ・粗さの影響補正や測定点数・記録様式の標準化の徹底により、膜厚管理の精度が向上します。

1. 電磁式測定

電磁式測定は、鉄鋼などの強磁性金属の上に形成された非磁性塗膜の膜厚を測定する方法です。ISO規格でも非磁性被覆膜を持つ磁性基材上の膜厚測定として定められています。

プローブという測定機の先端に磁力を発生させるコイルが内蔵されており、塗膜に接触させることで金属下地に影響を与え、塗膜が厚いほど磁力が弱くなり、薄いほど磁力が強くなることから膜厚を測定できます。

電磁式測定の主なメリット・デメリットは以下のとおりです。

メリットコストを抑えやすい装置本体の価格が比較的安価であり、導入しやすい
短時間で測定できるプローブを対象物にあてるだけで瞬時に測定できる
広範囲の測定にも対応している製品の形状やサイズに対する制約が少ない
デメリット複雑な形状の測定が難しい 曲面やエッジ、角付近は磁束経路が変形しやすく、正確な測定が難しい
エッジ効果による膜厚差が生じやすい
下地の厚さが精密さに影響する 金属下地が薄い場合、磁力による差が出にくくなり、測定値に影響する
表面の粗さや凹凸の影響を受ける プローブの先端の置かれた場所によって測定値が変動する
特に粗い皮膜やざらつきのある表面は誤差が生まれやすい

測定前には無塗装の基材またはゼロ板を使用して校正することやプローブの垂直当て、さらには温度の安定化が求められます。正確な数値を得るために、同一条件下での測定と、測定点・回数の標準化も重要です。

2. 渦電流式測定

渦電流式測定は、磁力を持たない金属下地に形成された絶縁性塗膜の膜厚を非破壊で測定できる方法です。プローブにコイルが入っており、プローブから発生する高周波電流が下地に渦電流を発生させ、その強さから膜厚を算出します。

鉄などの磁性金属の場合は電磁式、アルミや銅などの非磁性金属の場合は過電流式を採用するといった使い分けができます。

過電流式測定の主なメリット・デメリットは以下のとおりです。

メリット薄膜に強い 塗膜が薄くても電流によって膜厚を算出できるため、正しい数値を出しやすい
短時間で測定できる プローブをあてればすぐに測定できる
デメリット導電率変動の影響を受けやすい 基材構造や合金種差、温度変動によって導電率が異なると、数値に影響を与えやすい
塗膜や基材が導電性の場合は測定できない 導電性を持つ塗膜の場合、渦電流が塗膜でも流れてしまうため、基材からプローブまでの正確な値を算出できない

ただし、アルミニウム上の陽極酸化膜や合金の表面酸化皮膜などは、絶縁性かつ非電導性であるため、膜厚とみなされてしまいます。また、下地合金による導電率の差がある場合も測定値の誤差が生じるケースもあります。

そのため、製品と同じ基材で事前に塗膜標準を設定したり、別の測定方法を併用したりすると、正しい膜厚を測定可能です。

3. マイクロメーター式測定

マイクロメーター式測定は、塗装前後の製品の厚みの差分から膜厚を算出する、接触式(機械式)差分法に分類される測定方法です。非破壊式の測定方法ではありません。構造がシンプルで扱いやすく、下地材を選ばず測定できるため、現場でも広く用いられています。

マイクロメーター式測定の主なメリット・デメリットは以下のとおりです。

メリット装置構造が単純で分かりやすい専門的な知識がない場合でも測定できる
コストがかかりにくい電磁式測定やその他非破壊式測定の装置に比べ、初期コストを抑えられる
デメリット非破壊式測定でない場合が多い 破壊式測定と併用して、精密な膜厚測定を行うケースが多い
基材条件に依存しやすい 基材が平行でない場合や表面の粗さによって、測定値に差が生じる
薄膜には向いていない 測定圧によって潰れるリスクがある
誤差が生じやすい

工場のラインでは基準となる厚さのゲージブロックを活用した測定値との比較や、塗膜を削って測定するマスキング作法などと組み合わせて運用するケースもあります。マイクロメーター式測定は、基本的にどのような下地であっても測定できる点も特徴です。

まとめ|製品や塗料、塗装方法に適した膜厚の形成が重要

膜厚は塗装品質を左右する重要な要素です。薄すぎても厚すぎても品質に悪影響を及ぼす可能性があるため、施工する際は塗料や塗装プロセスごとに推奨されている適正な膜厚を目指す必要があります。また、膜厚の標準化を行うには、製品に合わせた膜厚測定を実施することも重要です。

なお、弊社では製品に合わせた膜厚測定や標準化、塗装請負まで幅広くサポートを行っております。塗装膜厚の品質向上を目指している方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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